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22 mars 2005

よしもとばなな『デッドエンドの思い出』

ツイードやフラノのジャケットに袖を通すときのあたたかくつつまれた感触が好きだ。
昔、高校入試で「夏と冬とではどちらが好きですか」という英作文の問題に「わたしは冬のほうが好きです」と思わず書いてしまった。天真爛漫な夏よりも寒さに緊張する冬のほうがなんとなく好きだ。江國香織も「冬のいいところの一つは窓がくもることだ」(『流しのしたの骨』)とか「冬は知恵と文明が要求される季節」(『神様のボート』)と書いている。
たいていの人がそうであるように、よしもとばななの小説にスリルや衝撃的なものを求めてはいない。入り江の波や静かな湖の水面を眺めるような時間を求めて読むのではないか。ぼくはそう思っている。そして、よしもとばななはどんよりと重くかすんで、それでいて甘い冬空を描くのがうまい。
読みすすむにつれて、特に「あったかくなんかない」で描かれている少年と少女の交流はどことなくトルーマン・カポーティを読んでいるような錯覚にとらわれるが、これはやはり気のせいだろう。
本人がいちばん好きな作品とあとがきに書かれているが、このせつなくてつらい短編の数々は彼女の人生の波立った部分を抽出したエキスのように思える。もちろんそれはせいぜい「さざなみ」程度のものであって、大方の読者を裏切るものではないだろう。いずれもせつなさ、つらさ、悲しい出来事からのリハビリが描かれている。ひとことでいえばリハビリ小説といってもよいだろう。人は不幸からのリハビリの中に幸せを見出すのかもしれない。
(2003.11.19)

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