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10 mai 2011

林芙美子『浮雲』

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先日、新宿区落合にある林芙美子記念館を訪ねた。もともと林芙美子が住んでいた家を新宿区の郷土資料として開放、展示している。
西武新宿線中井駅は妙正寺川が削ったであろう谷間に位置していて、その北側の目白大学や西落合の台地に向かって急坂がいくつかある。あまりに坂が多くて、ネーミングにも困ったのだろう。一の坂、二の坂と、戦後できた新制中学校や小学校が人口急増とともに番号を割り振られたような、そんな名前が付いている。
記念館は石段になっている四の坂の下にあり、『放浪記』『清貧の書』などからはイメージしにくい立派な木造家屋である。編集者を待たせる部屋や使用人の部屋まである。行商人の子として、貧しく育った著者もこの家に移り住む頃には、売れっ子の小説家だったのだ。なにしろシベリア鉄道で陸路パリまで行った人なのだ。
『浮雲』は成瀬巳喜男が映画化している。外地から戻り、たくましく、したたかに生きる女主人公ゆき子を高峰秀子が演じている。映画の主役はあくまでゆき子であるが、小説の中で林芙美子が浮雲になぞらえたのは実はゆき子ではない。
今、文庫本などで身近に読める林芙美子の長編は『放浪記』とこの『浮雲』だが、必死の思いで書きなぐった日記風の前者にくらべ、後者は荒削りで乱暴だった時代の文章から格段の進歩をとげている秀作だと思う。しかもドストエフスキーの引用があり、ゾラの空気感を宿すところもあり、小説家林芙美子の完成形に近づいている。その結果が落合の、立派な木造家屋なのかもしれない。
『悪霊』第2巻もはやく読まなくちゃとも思いつつ。

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